PrEPとは
PrEPとは、HIV感染予防を目的とした治療方法のことです。日本語では暴露前予防内服と表現されます。英語のPre-exposure prophylaxisの略称でPrEPと呼称されています。
PrEPと似た呼称のPEP (post exposure prophylaxis)という治療方法があります。こちらは日本語で暴露後予防内服と表現され、PrEPとは内服方法が異なります。PEPはHIVの感染リスクのある行為があった後に内服を行うもので、緊急的な治療方法です。HIV感染症に対する治療法に準じた薬剤が選択されます。
PrEPはリスクのある行為に対して事前から予防的内服を行うものです。当院の診療はPrEPのみに対応しています。
PrEPの効果
PrEPは決められたスケジュールでHIV感染症の治療薬である抗レトロウイルス薬を内服することで感染を予防する治療法です。
スケジュールを守って内服することで、性行為によるHIV感染に対して、99%の予防効果が期待できるとされています。
(参照 https://www.cdc.gov/hiv/basics/prep.html)
毎日服用する方法で予防内服を開始した場合に、7日間ほど内服を継続した時点で薬剤の予防効果が得られると考えられています。
適切に内服を行うことでHIV感染に対する高い予防効果が期待されますが、PrEPで得られる効果はHIV感染に対する予防効果のみです。
PrEPはHIV感染以外の性感染症のリスクを軽減させるものではありません。他の性感染症予防のために、コンドームを使用した安全な性行為を行うことが大切です。
PrEPの適応、推奨される人、推奨される理由
PrEPの内服の方法は主に3種類あります。
- 毎日1回1錠を内服する方法(デイリーPrEP)
- 性行為の前後の決まった時期に複数回に分けて内服する方法(オンデマンドPrEP)
- 一週間で4錠を継続して服用する方法(週4日の内服、別名:Ts and Ss)の3つです。いずれも国際機関によって効果があると認められています。
(参照 WHO https://www.who.int/hiv/pub/prep/211/
CDC https://www.cdc.gov/hiv/risk/estimates/preventionstrategies.html )
内服の方法によって適応、推奨される対象が異なります。
デイリーPrEP
男性同性間、男女間、トランスジェンダーの方など、HIV感染のリスクのある性行為を行う方すべてに対して予防効果が得られます。
オンデマンドPrEP, Ts and Ss
男性同性間で性行為を行う方にのみ推奨されており、女性やトランスジェンダーには推奨されていません。
HIV感染症に対する治療薬の進歩に伴って、HIVの増殖を抑えることが可能となっており、AIDSの発症をほぼ確実に予防できるようになっています。そのためHIV感染後の生命予後は飛躍的に改善しています。
しかし、HIV感染症に対する治療は一生涯継続されるものであり、治療の長期化に伴う慢性的な合併症が問題となってきています。また、HIV感染によって、差別や偏見を受けてしまいやすく、一般的な理解がなかなか進んでいないことも難しい問題です。
・HIVに感染していても、適切な治療を行い、感染感度以下の状態を保っていれば、性行為によってHIVは感染しない。
・HIV感染のリスクのあるパートナーとの性行為において、PrEPなどの予防的内服をおこなっていれば、高い確率でHIV感染を予防できる。
したがって、PrEPはHIV感染症の蔓延を防ぐことにもつながるため、世界的に注目され、リスクのある方に推奨されています。
PrEPで用いられる治療薬
PrEPで使用する内服薬は抗ウイルス薬と核酸系逆転写酵素阻害剤の合剤が用いられています。世界的には、テノホビルジソプロキシル/エムトリシタビン(略名:TDF/FTC)、テノホビルアラフェナミド/エムトリシタビン(略名:TAF/FTC)の2種類の治療薬が用いられています。
2010年以降、TDF/FTCを用いたPrEPに関するエビデンスが蓄積され、その有効性や安全性が証明されています。
参考文献( https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1011205 )
TDF/FTCは腎機能障害をきたすことがあるため、腎機能障害のある方は内服開始できないことがあり、内服開始後の腎機能の確認が必要になります。
TAF/FTCはアメリカでPrEPの治療薬としての臨床試験が行われ、TDF/FTCと比較した治療効果の非劣勢と、安全性の優位が示されました。
DISCOVER試験( https://www.descovyhcp.com/discover-clinical-trial )
TAF/FTCは2019年にアメリカでPrEPの治療薬としての承認が得られています。男性と性交渉のある男性および男性から女性への性転換者(TGW)が適応です。
U.S. Food and Drug Administration Approves Dscovy® for HIV Pre-Exposure Prophylaxis (PrEP)
( https://www.gilead.com/news-and-press/press-room/press-releases/2019/10/us-food-and-drug-administration-approves-descovy-for-hiv-preexposure-prophylaxis-prep )
当院では、治療薬の長期使用で懸念される腎機能障害や骨への影響がほとんどないとされている、TAF/FTCのジェネリック薬を採用しています。定期的に長期間内服する薬ですので、安全で低価格となるものを選択しています。
当院で採用しているジェネリック薬は、PrEPのジェネリック薬の品質検査において偽薬はみつかっていないものを採用しています。
品質検査の詳細はこちら( https://prepster.info/realdeal/ )
当院での診療・治療費ついては、こちらをご覧ください
PrEPを開始する前や開始後に確認しておくべき事項
以下の事項にあてはまる方はPrEPを行うことができない状況、あるいは注意が必要な状況となります。
- 過去にHIV感染症の治療薬に含まれる成分でアレルギー反応を経験したことのある方はPrEPを行うことができません
- HIVに感染している
PrEPで使用する内服薬はHIV感染症に対する治療にも用いられる薬ですが、単剤での使用はHIV感染症に対する治療として不十分です。
その後のHIV感染症の治療に悪影響を与える可能性があり、HIVに感染している方はPrEPを行うことができません。 - B型肝炎ウイルスに感染している
PrEPの内服を中止することでB型肝炎が悪化することがあります。進行したB型肝炎の場合は重症化することがあり、PrEPの開始は慎重に行う必要があります。
慢性B型肝炎の方はオンデマンドPrEPの方法を選択することができません。 - 腎臓の機能に障害がある
PrEPで使用する薬剤は腎臓の機能に影響を与えることがあるため、腎臓の機能に障害がある場合は、機能の程度により薬剤の使用が制限される場合があります。TAF/FTCの使用は重度の腎機能障害(腎機能の指標のひとつである、クレアチニンクリアランスが30ml/min未満)がある場合、内服できません。TDF/FTCの場合は、腎臓の機能が中等度以上(腎機能の指標のひとつである、eGFRが60未満)である場合、内服できません。
PrEPを開始する前に、HIV・B型肝炎・腎機能の検査を行って、上記にあてはまらないか確認しておく必要があります。
当院では自宅で検査を行えるスクリーニング検査キット(HIV感染、B型肝炎ウイルス感染)による感染確認が可能です。当院のオンライン診療を受診される前に他の医療機関等で検査を行っていない方や、PrEP開始後の経過観察目的に、検査の御案内をしております。
検査キットについては、こちらをご覧ください
PrEPを開始した後に確認しておくべき事項
PrEPを開始して1ヵ月の時点で、PrEPの継続に問題がないかの確認と、副作用が出現していないかチェックする目的で、HIVや腎機能、肝機能の検査を行うことが推奨されます。
また、PrEP開始後、自覚症状がなくても、3-6ヵ月ごとにHIVや腎機能の確認を行うことが推奨されます。
PrEPの内服方法と注意点については、こちらをご覧ください。
当院での治療
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